静岡地方裁判所 昭和59年(ワ)154号 判決 1988年12月23日
静岡県焼津市小浜一三九七番地
原告
株式会社海洋牧場
右代表者代表取締役
槻木政則
右訴訟代理人弁護士
古川祐士
静岡市昭和町九番地の五
被告
日本エムジー薬業株式会社
右代表者代表取締役
米川博
右訴訟代理人弁護士
白井孝一
同
藤森克美
右訴訟復代理人弁護士
杉山繁二郎
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、被告の製造する深海鮫エキス商品に「マリンゴールド」という表示を使用し、または右表示を使用した同商品を販売していならない。
2 被告は、被告の製造する深海鮫エキス商品の包装容器及び包装用箱に「マリンゴールド」という表示を使用し、または同包装容器及び包装用箱を使用した同商品を販売してはならない。
3 被告は、被告の深海鮫エキスマリンゴールドの表示のある容器、包装用箱、包装用紙、説明書、パンフレツトを廃棄せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1(一) 原告は健康食品の製造販売等の事業を目的とする株式会社であるが、昭和四七年一二月健康増進に大きな作用を果たす成分(スクアレン)を含む深海鮫(アイザメ)の肝臓エキスの安定化技術の開発に成功し、昭和四九年九月「マリンゴールド」の商品名で深海鮫エキスの製造販売を開始した。
(二) 原告はパンフレツト作成、雑誌等への記事、広告などの掲載に多額の費用を支出し、昭和四九年九月頃、「マリンゴールド」の名称を全国的に周知せしめた。すなわち、新栄養・ヘルス・二〇世紀・健康フアミリー・主婦の友・財界・週刊大衆・週刊サンケイ・新日本・月刊ワールド経済・報道ニツポン・週刊新潮・サンケイ新聞に広告や記事を掲載した外、スタミナ料理百科・深海鮫エキス健康法・私はこうして癌を治した・死の淵からの生還・深海鮫エキスマリンゴールドなどの単行本が刊行され、さらにテレビ静岡を初めとする各ローカル局・TBS等の全国放送によつても広告を行つた。
(三) 原告は宣伝活動に努めるとともに、その販売網を全国にわたつて拡大した結果、「マリンゴールド」の売上げは、昭和四九年で一億八〇〇〇万円であつたものが、昭和五〇年七億円、昭和五一年二〇億円、昭和五二年三〇億円と上昇を続け、その後ややピークを過ぎ、売上げ水準はやや下つているが、現在でも原告の主力商品として年間売上げ額は数億円を維持している。
(四) 以上のような宣伝活動と原告の商品である深海鮫エキス「マリンゴールド」が優秀な品質を有することが認められたことにより、原告はその販売実績をあげ「マリンゴールド」の表示は原告の商品であることを示す商標としてはもちろん、原告の営業表示としても我が国において広く認識されている。
2 被告は昭和五三年一二月七日設立された株式会社であつたが、昭和五四年四月上旬原告との取引を止め、「マリンゴールド」の名称を付して深海鮫エキスを製造販売しようとして、同年五月上旬深海鮫エキス及びその容器並びに「マリンゴールド」と表示のある包装用箱の製造を開始した。被告は既にその包装用箱を原告の得意先に配布し、同種製品販売の旨を公表している。
3 「マリンゴールド」の商標は原告が全く独自に創案した用語であつて顕著な特異性を有するところ、被告の商品、包装用箱の表示はこれと全く同一である。その結果、原告は比較的短期間に急速に発展した企業であり、原告の主力商品である「マリンゴールド」と被告の「マリンゴールド」の表示を使用する商品とは、ともに深海鮫エキスであり需要者、販売地域も共通であることから、被告の商品に自らの社名を表示しても原告またはその系列会社の業務にかかる商品、営業活動と混同される虞れが顕著である。
4 被告の「マリンゴールド」が販売された場合「マリンゴールド」という表示につき双方の宣伝が重複する結果原告の宣伝効果は集中的に原告に帰属せず分散稀薄化され、商品・営業表示の最も重要な機能である宣伝的機能が著しく減殺されるため投下資本の正常な回収が阻害されること、原告の「マリンゴールド」という表示は原告の創作によるものであり唯一単一のものとして無形の資産として高い価値を有するところ被告の商品販売によりその唯一性は一挙に否定されその評価と名声は崩壊の危機にさらされること、被告の商品の品質についてはこれを保障し難く原告の信用が毀損されること、被告が支払うべき運送代金・広告費等につき誤つてその支払請求を受けること等によつて、原告の営業上の利益は著しく侵害される。
5 よつて、原告は、被告に対し、不正競争防止法一条一項一号に基づき、被告製造の深海鮫エキス商品に「マリンゴールド」の表示を使用すること及び右表示を使用した同商品の販売並びに被告製造の深海鮫エキス商品の包装容器・包装用箱に「マリンゴールド」の表示を使用すること及び右包装容器・包装用箱を使用した同商品の販売の各差止めと、「深海鮫エキスマリンゴールド」の表示のある容器・包装用箱・包装用紙・説明書・パンフレツトの廃棄を求める。
二 請求原因事実に対する認否
1 請求原因1(一)の事実のうち、原告が昭和四七年一二月健康増進に大きな作用を果たす成分(スクアレン)を含む深海鮫(アイザメ)の肝臓エキスの安定化技術の開発に成功したこと及び昭和四九年九月「マリンゴールド」の商品名で深海鮫エキスの製造販売を開始したことは否認し、その余の事実は認める。
同1(二)の事実のうち、原告が「マリンゴールド」の名称を全国に周知せしめたことは否認し、その余の事実は、認める。
同1(三)の原告の売上額については不知。
同1(四)の事実は、否認する。
2 同2の事実のうち、被告が昭和五四年四月上旬原告との取引を止めたとの点は否認し、その余の事実は認める。
原告と被告との取引は、原告が一方的に停止したものである。
3 同3の事実のうち、被告の、「マリンゴールド」の表示を使用する商品と原告の「マリンゴールド」の表示を使用する商品とが、いずれも深海鮫エキスであることは認め、その余の事実は否認する。
4 同4の事実は、いずれも否認する。
三 抗弁
1 株式会社紀文(以下「紀文」という。)と米川博とは、昭和五三年一二月一日、紀文が米川博及び同人が代表取締役である被告に対し、左の約定の下に、紀文の有する商標登録第三二四六五四号(商標態様「マリン」)、商標登録第一三四四二一六号(商標態様「マリン」)に類似する商標使用態様「マリンゴールド」外の使用権並研に紀文において商標出願中の別紙目録記載の商標「マリンゴールド」(以下「本件商標」という。)が設定登録されたときは本件商標の独占的使用権を、それぞれ付与することを内容とする契約を締結した。
使用商品 アイザメの肝臓からスクアレンを精製し、活性化したカプレル状食品(深海鮫エキス)
使用期間 昭和五三年一二月一日から昭和五八年一二月一日まで
使用地域 日本全域
対価 金六〇〇万円
2(一) 本件商標は、昭和四九年一二月一三日国際健康薬品株式会社(以下「国際健康薬品」という。)によつて出願され、昭和五二年四月一二日付で公告されたが、特許庁審査官は、昭和五四年五月二五日、紀文による商標登録第三二四六五四号(商標態様「マリン」)及び商標登録第一三四四二一六号(商標態様「マリン」)を引用し、商標法四条一項一一号に該当することを理由とする異議申立を容れ、本件商標の登録出願を拒絶する査定を行つた。
(二) その後、紀文は、国際健康薬品から本件商標の登録出願人の地位を譲り受け、昭和五四年七月二五日付をもつて出願人名義変更届をなすとともに右拒絶査定に対する審判請求を提起した。紀文は、商標法七条一項の規定を充足するため、昭和五五年二月四日付をもつて、本件商標の登録出願を、商標登録第三二四六五四号(商標態様「マリン」)、商標登録第一二四〇四一七号(商標態様「マリンパツク」)、商標登録第一三四四二一六号(商標態様「マリン」)との連合商標としての登録出願に変更する出願変更を行つた。
(三) 昭和五六年一一月二七日、(二)記載の連合商標としての登録出願に係る商標についての設定登録がなされた。
3 したがつて、米川博及び同人が代表取締役である被告は、前記1の契約に基づき、昭和五六年一一月二七日以降本件商標の独占的通常使用権を取得した。
4 紀文と米川博は、昭和五八年一二月一日、紀文が米川博及び同人が代表取締役である被告に対し、期間を同日から昭和五九年一一月三〇日まで、対価を六〇万円、使用態様、商品及び地域をいずれも前記1の契約のとおりとして、本件商標の独占的通常使用権を付与する内容の契約を締結した。
5 紀文と米川博は、前記4の契約を、昭和五九年一一月二九日に同年一二月一日から昭和六〇年一一月三〇日まで、昭和六〇年一〇月二九日に同年一二月一日から昭和六一年一一月三〇日まで、昭和六一年一一月二九日に同年一二月一日から昭和六二年一一月三〇日までそれぞれ更新した。
6 したがつて、被告による商標「マリンゴールド」の使用は、商標法上の権利行使にあたる行為であり、適法である。
四 抗弁事実に対する認否
1 抗弁1の事実のうち、紀文と米川博との間で昭和五三年一二月一日に締結された契約が、被告にも商標使用態様「マリンゴールド」外の使用権等を付与することを内容としていたとの点は否認し、その余の事実は認める。
2 抗弁2(一)の事実は認める。なお、国際健康薬品の出願に対しては、原告も異議申立をしていたが、特許庁の出願拒絶査定が紀文からの異議申立についてなされたため、原告からの異議申立に対する判断はなされなかつた。
同2(二)の事実は認める。但し、紀文が国際健康薬品から本件商標の登録出願人の地位を譲り受けたのは、米川博の働きかけによるものである。
同2(三)の事実は認める。
3 同3の事実は否認する。
4 同4の事実のうち、紀文と米川博との間で昭和五八年一二月一日に締結された契約が、被告にも本件商標の独占的通常使用権を付与することを内容としていたとの点は否認し、その余の事実は認める。
5 同5の事実のうち、紀文と米川博との間で、昭和五九年一一月二九日、昭和六〇年一〇月二九日、昭和六一年一一月二九日にそれぞれ更新された契約が、被告にも本件商標の独占的使用権を付与することを内容としていた、との点は否認し、その余の事実は認める。
6 同6の主張は争う。
五 再抗弁
1(一)(1) 米川博は、原告が昭和五一年訴外浅山商事と共同で原告製造にかかる深海鮫エキス「マリンゴールド」(以下「原告製品」という。)の販売組織として日本マリンゴールド販売株式会社(以下「日マリ」という。)を設立した際、浅山商事側の一員として設立に参画し、当初は取締役として東日本地域の販売を担当したが、昭和五三年三月ころ日マリの代表取締役に就任した。
(2) 原告は、同年八月二四日、日マリとの間で、一ヵ月の仕入れ及び一ヵ月最低三五〇〇万円として原告製品の日本国内における独占的卸売販売権を日マリに与えることを内容とする協定を結んだ。
(3) 米川博は、右契約条件を履行せず、かつ不正行為も発覚したので同年一一月に日マリの代表取締役を辞任したが、原告は米川博の要望を容れ、同年一〇月七日、米川博との間で、一ヵ月の最低仕入、支払額を一五〇〇万円として原告製品の東日本地域における独占的販売権を米川博に与えることを内容とする契約を結んだ。
(4) 米川博は、同年一二月七日被告を設立し、被告の代表取締役として東日本地域において原告製品の独占的販売を行つてきた。
(二) 紀文が、抗弁2(二)のとおり国際健康薬品から本件商標の登録出願人の地位を譲り受けたのは米川博の強い働きかけによるものであり、その専らの目的は、米川博が本件商標を使用することにあつた。
2(一) 米川博は、原告から原告商品の国内二分の一に及ぶ独占的卸売販売権を与えられて、原告商品の販売に当たつてきたものであり、原告が「マリンゴールド」の商標を創案し、莫大な広告費を投じて「マリンゴールド」の名称を全国的に周知せしめたこと、原告が深海鮫エキス「マリンゴールド」の製造販売を営業の基盤としていることを熟知していたのであるから、米川博及び同人が代表取締役を務める被告は、原告が多年にわたつて築きあげた「マリンゴールド」商標使用について有する利益を承認し、これをみだりに侵害しない信義則上の義務を負つていると解すべきである。
(二) しかるに、米川博は、抗弁2(一)の出願の事実を知るや、「マリンゴールド」の商標権を取得することを企て、国際健康薬品においてこれまで本件商標を実際に使用したことがないこと及び原告が国際健康薬品による本件商標の出願に対して異議申立をしていることを知りながら、原告との間で原告商品の独占的卸売販売権の取得に関する契約を締結した直後の昭和五三年一二月一日に、原告には極秘裡に紀文と交渉して、抗弁1の契約を締結し、また、国際健康薬品や紀文と交渉し、紀文に本件商標の登録出願人の地位を取得させた。
被告は、原告との間の右独占的販売契約が存するにもかかわらず、米川博において「マリン」の商標使用権契約を締結した直後から契約における使用態様にも違反する形で「マリンゴールド」の商標を付した深海鮫エキスを製造販売しようと企て、昭和五四年二月頃にはこれを実行するに至つた。
3 深海鮫エキス「マリンゴールド」の商標は、原告が独自に創案し、原告の宣伝、販売活動の結果、我が国において広く認識されるようになつたことや、原告と米川博あるいは被告との関係、被告が本件商標の使用権を取得した経緯並びに本件登録商標使用の実態等に鑑みれば、被告が抗弁で主張する商標使用権の行使は、原告との関係で信義に反し、商標法の趣旨にもとるものであつて、権利の濫用として許されないというべきである。
六 再抗弁事実に対する認否
1(一) 再抗弁1(一)(1)の事実は認める。米川博は、昭和五三年三月当時資金繰りに窮していた原告から、原告製品の日本全国における販売権を米川博に付与すること等の条件を示されて、日マリ代表取締役への就任を依頼されたため、就任をしたものである。
同1(一)(2)の事実のうち、協定成立の時期について否認し、その余の事実は認める。右成立時期は、昭和五三年四月三日ころである。
同1(一)(3)の事実のうち、米川博が契約条件を履行せずかつ不正行為も発覚したとの点は否認し、その余の事実は認める。米川博が代表取締役に就任した後の日マリは、原告を再建するため、昭和五三年四月一日以降月額三五〇〇万円の仕入額を確保する旨の約定を履行した。しかし、その後米川博から安売りに対する苦情及び月額三五〇〇万円の仕入額を下げるよう契約条件の変更を申し入れたところ原告から、これを拒絶され、しかも、米川博の販売権を東日本(関東、東北、北海道)に制限された。このため米川博は、日マリの代表者を辞任したものである。
同1(一)(4)の事実は認める。
(二) 同1(二)の事実は否認する。
2(一) 同2(一)の事実は否認し、その主張は争う。(二) 同2(二)の事実は否認する。原告から米川博あるいは被告に対し「マリンゴールド」の商標権に関し、何ら相談もなく事情説明もなされなかつたため、米川博は独自にこれを調査し、国際健康薬品の出願の事実と、紀文の商標「マリン」の権利について知つたため、被告の「マリンゴールド」販売活動を保全するため、右両者と交渉を行い紀文との間において商標「マリンゴールド」の独占的通常使用権を取得する前記契約を締結したものである。また、被告は、紀文との間の右契約締結後も、原告との契約を誠実に履行し、昭和五四年三月迄月額一五〇〇万円の仕入額を確保してきたが、原告が昭和五四年四月に一方的に商品供給を停止したため、被告独自の販売を準備したに過ぎない。
3 同3の事実は否認し、その主張は争う。被告は、原告とは独立した企業であり、被告が独自に本件商標使用権を取得することができることは当然であり、原告から非難されるいわれはない。むしろ、本件商標権あるいは使用権の取得に関して原告が何らの措置もとらなかつたのは原告の怠慢というべきであるから、被告には何ら背信的行為はなく、権利濫用の主張は失当である。
理由
一 請求原因について
1 「マリンゴールド」商標の周知性
(一) 原告が健康食品の製造販売等の事業を目的とする株式会社であることは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証、第二号証の一、二、第二一号証、成立に争いのない甲第六三ないし第六五号証の当庁昭和五四年(モ)第五九六号仮処分異議事件証人金子利朗の証人調書(以下、証人調書及び本人調書はいずれも右事件調書を意味する。)及びこれによつて真正に成立したことが認められる甲第一号証、第一五号証、第一七ないし第二二号証、第二四号証、第二七ないし第二九号証、第三一号証、第三八号証、第三九号証、第四三号証、成立に争いのない乙第五七号証の証人浅山忠彦の証人調書、原告製造の深海鮫エキスの包装外箱の写真であることは当事者間に争いがなく、右浅山忠彦の証人調書によつて昭和五〇年一月一六日製造の製品の外箱を撮影した写真であると認められる乙第三六号証を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 原告は、昭和四七年一二月頃スクアレンを含む深海鮫(アイザメ)の肝臓エキスの安定化技術の開発に成功し、これを国際健康食品株式会社(変更前の商号株式会社フエデツク)を通じて、昭和四九年九月から販売し始めた。
(2) 原告製造の深海鮫エキスは、販売開始から昭和五〇年一月頃までは、主に「深海鮫エキス」の名称で販売されており、一般の消費者向けの宣伝においても右名称が使用されていた。
(3) 原告は、昭和五〇年一月頃に、国際健康食品株式会社との取引を打ち切り、独自の販売活動を行うようになつたが、その頃から原告製造の深海鮫エキスの名称を「マリンゴールド」とするようになり、多額の費用をかけてパンフレツトの作成、雑誌等への記事、広告の掲載を行つた。すなわち、原告は、新栄養・ヘルス・二〇世紀・健康フアミリー・主婦の友・財界・週刊大衆・週刊サンケイ・新日本・月刊ワールド経済・報道ニツポン・週刊新潮・サンケイ新聞等に販売広告や宣伝記事を掲載した外、「スタミナ料理百科」、「深海鮫エキス健康法」、「私はこうして癌を治した」、「死の淵からの生還」、「深海鮫エキスマリンゴールド」などの単行本を出版社を介して刊行し、さらにテレビ静岡を始めとする各ローカル局やTBS等の全国放送によつても「深海鮫エキスマリンゴールド」の広告を行つた。
(4) 原告は、右のような方法により宣伝、販売活動に努めるとともに、昭和五一年五月、訴外浅山商事株式会社と共同で原告製品の販売組織として「日マリ」を設立し、全国に販売網を拡大した結果、「マリンゴールド」の売上は急速に伸び、昭和五二年度に最大の売上を挙げ、その後やや売上水準は落ちているが、年間四億円位の売上額を維持している。
(二) 右認定に対し、原告は、昭和四九年九月から「マリンゴールド」の商品名で深海鮫エキスの製造販売を開始したと主張し、前掲証人金子利朗の証人調書中にはこれに沿う陳述部分がある。しかし、同人自身、昭和四九年中は、「マリンゴールド」の記載がある包装用箱の外に「深海鮫エキス」の名称のみが記載された包装用箱も使用していたことを自認しているのみならず、昭和四九年中には、原告が「マリンゴールド」の名称を使用して公刊物に広告や記事を掲載したことを証するに足りる証拠はなく、かえつて前掲乙第二一号証によれば、原告は、昭和五〇年一月二九日に至つても「深海鮫エキス」の名称で商品の販売と特約店募集の新聞広告をしていることが認められることなどからすれば、昭和四九年中においては、原告が「マリンゴールド」の名称で商品を販売することがあつてもごく一部であつたと推認するほかなく、右金子利朗の証人調書中の前記陳述部分は、前記(一)の認定を覆えすには足りないものといわざるを得ず、他に右認定を左右するに足りる証拠は存在しない。
(三) 以上認定の事実によれば、「マリンゴールド」の表示が原告の製品を示す商標として、あるいは原告の営業を表示するものとして需用者に広く認識されるようになつた時期は、早くとも昭和五〇年一月以降であるというべきであり、同年から昭和五一年にかけて周知性を確立するとともにその地域を拡大し、昭和五二年には、全国的に広く認識されるようになつたと判断するのが相当である。
2 被告包装用箱の製造等の行為
被告が昭和五三年一二月一七日に設立された株式会社であること、被告が昭和五四年五月上旬に深海鮫エキス及びその容器並びに「マリンゴールド」と表示のある包装用箱の製造を開始したこと、被告がその包装用箱を原告の得意先に配布して被告と同種の製品を販売する旨公表していることは、いずれも当事者間に争いがない。
3 原告と被告の商品等の混同
(一) 原告の「マリンゴールド」の表示を使用する商品と被告の「マリンゴールド」の表示を使用する商品とがいずれも深海鮫エキスであることは、当事者間に争いがなく、前掲第六三ないし第六五号証(証人金子利朗の証人調書)、成立に争いのない甲第二号証、第三号証、第四八号証、第六六、第六七号証(原告代表者本人尋問調書)、乙第五五号証の一ないし五(被告代表者本人尋問調書)、官公署作成部分につき当事者間に争いがなく右原告代表者本人尋問調書によつて真正に成立したことが認められる甲第五四号証、右被告代表者本人尋問調書によつて真正に成立したことが認められる乙第三九号証によれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
(1) 被告は、昭和五三年一〇月頃から原告と深海鮫エキスの取引を始め、原告から「マリンゴールド」の供給を受けて、これを傘下の関連会社である北海道マリンゴールド販売株式会社、マリンゴールド東北販売株式会社日本マリンゴールド東京販売株式会社などを通じて東日本地域の健康食品を取扱う問屋に販売していたが、昭和五四年四月上旬に原告から、被告が取引上の債務について担保を提供しないなどの理由で取引契約を解除され、商品の供給も停止されたので、被告が独自に深海鮫エキスを製造。販売して右販売ルートを維持しようとした。
(2) 原告は、被告会社代表取締役米川博に対して、昭和五三年一〇月以降「マリンゴールド」の東日本地域における独占的卸売販売権を与えていたが、昭和五四年四月に被告との取引契約を解除した後は、東日本地域にも被告を通さずに「マリンゴールド」を販売しており、その取引先の問屋には、被告が従前取引をしていた問屋も含まれている。
(3) 原告が薬系統の問屋用に使用している「マリンゴールド」の包装用箱と被告の製品の包装用箱は、いずれも色調が青色で、側面中央に「マリンゴールド」「MARINGOLD」の文字が交互に表現され、「マリンゴールド」の上欄に「ヘルスフード」、下欄に「深海鮫エキス」と付記されており、側面最下部にそれぞれ自社の表示がなされている。
(二) 右認定の事実によれば、原告の「マリンゴールド」の表示を使用する商品と、被告の「マリンゴールド」の表示を使用する商品とは、販売地域、需用者のいずれの点においても競合すると認められ、さらに両者の包装用箱も類似する部分があるので、被告がその商品に自らの社名を表示していても、被告の商品が、取引者又は需用者に原告又はその系列会社の商品ないし原告の営業活動と混同される虞れが顕著であるものというべきである。
4 原告の営業上の利益の侵害
(一) 前掲第六三ないし第六七号証並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が推認される。
(1) 被告製造の「マリンゴールド」が販売された場合、「マリンゴールド」という表示につき双方の宣伝、販売活動が重複する結果、原告の宣伝効果は、原告のみに帰属せずに右表示の取引通用性が分散稀薄化され、商品の宣伝的機能が著しく減殺されるため、原告の商品の売上げが減少あるいは向上せず、投下資本の正常な回収が阻害されることになる。
(2) 被告の製品について品質不良等の問題が発生した場合、原告の製品が同じ深海鮫エキスであり、表示も同一であるから、原告の商品との誤認混同により原告の信用が毀損される事態が発生しないとも限らない虞れがある。
(3) 被告が取引先に対して支払うべき運送代金、広告等につき、誤つて原告がその支払請求を受けたり、原告が支払をうけるべき商品代金等が被告に支払われたりする可能性があり、また、原告に対する商品の購入のための申込が被告に対してなされる虞れもないではない。
(二) 右の推認しうる事実によれば、被告製造の「マリンゴールド」が販売された場合、原告の営業上の利益は、侵害される虞れがあるということができる。
二 抗弁について
1 紀文と米川博との間で、昭和五三年一二月一日に抗弁1に記載のような商標使用に関する契約が締結されたことは当事者間に争いがなく、前掲乙第五五号証の一ないし五(被告代表者本人尋問調書)及びこれによつて真正に成立したことが認められる乙第二四号証の一、二、第四五号証によれば、右契約では、紀文は、米川博が代表取締役を務める被告にも、紀文において商標出願中の別紙目録記載の商標「マリンゴールド」(以下「本件商標」ということもある。)の使用権を付与したものと認められる。
2 抗弁2の(一)、(二)、(三)の事実は、いずれも当事者間に争いがないので、昭和五六年一一月二七日以降、米川博及び同人が代表取締役を務める被告は、本件商標の独占的使用権を取得したものというべきである。
3 紀文と米川博との間で、昭和五八年一二月一日に抗弁4に記載のような商標の使用に関する契約が締結されたことは当事者間に争いがなく、前掲乙第五五号証の一ないし五(被告代表者本人尋問調書)及びこれによつて真正に成立したことが認められる乙第四四号証によれば、右契約では、紀文は被告に対しても本件商標の独占的通常使用権を付与したものと認められる。
4 紀文と米川博との間で、昭和五九年一一月二九日、同六〇年一〇月二九日、同六一年一一月二九日にそれぞれ右契約が更新されたことは当事者間に争いがなく、前掲乙第五五号証の一ないし五(被告代表者本人尋問調書)及びこれによつて真正に成立したことが認められる乙第四六号証、第五二ないし第五四号証によれば、紀文と米川博が、昭和六二年一〇月二六日に更に右契約を更新したこと及び右各更新後の契約においては、紀文は、いずれも被告に対しても本件商標の独占的使用権を付与したことが認められる。
5 本件商標は、昭和四九年一二月一三日、国際健康薬品によつて出願されたが、その後紀文が、国際健康薬品よりその登録出願人の地位を譲り受けたうえ、昭和五五年二月四日付で本件商標の登録出願を、紀文の有する商標態様「マリン」「マリンパツク」との連合商標としての登録出願に変更したのであるから、商標法一一条五項、一〇条三項の規定により、本件商標を含めた連合商標の登録は、変更前の出願時(昭和四九年一二月一三日)に出願したものとみなされるものというべきである。そして前記1のとおり、「マリンゴールド」の表示が被告を指称するものとして周知性を確立したのは、昭和五〇年以降のことであるから、右連合商標に基づく本件商標の使用については、不正競争防止法六条の規定により同法一条一項の規定の適用が除外されるところ、被告及び米川博は、前記のとおり、昭和五三年一二月一日より一貫して紀文から本件商標の使用権または独占的使用権を与えられているのであるから、被告による「マリンゴールド」の表示の使用は、商標法による適法な権利行使であると解するのが相当である。
三 再抗弁について
1(一) 前掲甲第四八号証、第五四号証、第六四、第六五号証(証人金子利朗の証人調書)、第六六、第六七号証(原告代表者本人尋問調書)、乙第一号証、第二号証の一、二、第三九号証、第五五号証の一ないし五(被告代表者本人尋問調書)、第五七号証(証人浅山忠彦の証人調書)原本の存在及び成立に争いのない甲第四四号証、成立に争いのない甲第四六、第四七号証、第四九号証、乙第一〇号証、第一二号証の一、第一三号証の一ないし三、第一四号証、第二八号証の五、第五六号証(証人加藤光宏の証人調書)、右証人加藤光宏証人調書によつて真正に成立したことが認められる乙第六号証、第七号証、第三七号証の一、二によれば、次の事実が認められる。
(1) 日本マリンゴールドが昭和五一年五月に設立された以降、原告製造の「マリンゴールド」は、そのほとんどが同社並びにその傘下の各地区販売会社(北海道マリンゴールド販売株式会社、マリンゴールド東北販売株式会社、日本マリンゴールド東京販売株式会社、日本マリンゴールド大阪販売株式会社、西日本マリンゴールド販売株式会社、日本マリンゴールド九州販売株式会社)を通じて取引先に販売されていた。
(2) 日マリは、原告が一九〇〇万円、浅山商事株式会社が一九八〇万円、日本ヘルスフード研究会に属する薬関係の問屋三八社が約二三〇〇万円をそれぞれ出資して設立した会社で、当初その代表取締役には、当時の原告代表取締役である金子利朗と浅山商事株式会社の代表取締役である浅山忠彦の二名が就任したが、昭和五一年一一月頃経営方針の対立から右浅山が日マリの代表取締役を辞任し、浅山商事株式会社所有の株式は原告がこれを買い取つた。
(3) 米川博は、昭和五二年四月にマリンゴールド東北販売株式会社の代表取締役に就任、その後北海道マリンゴールド販売株式会社の代表取締役にも就任し、原告の製造する「マリンゴールド」の販売活動に従事していたが、昭和五三年三月頃、当時資金繰りに窮していた原告から「マリンゴールド」の日本全国における販売権を米川博に付与する等の条件を示されたため、日マリの発行済株式総数の約六四パーセントにあたる原告所有株式約四〇〇〇万円を買い取り、日マリの代表取締役に就任した。それと同時に米川博は、日本マリンゴールド大阪販売株式会社、西日本マリンゴールド販売株式会社は、日本マリンゴールド九州販売株式会社の各地区会社の代表取締役も兼ねることになつた。
(4) 昭和五三年四月当時、向う六か月位は、日マリから月額最低金三五〇〇万円程度の入金がないと、原告の資金繰りが窮することから、日マリの代表取締役米川博と当時の原告代表取締役小嶋毅との間で、日マリが原告に対してする仕入及び支払を月額最低金三五〇〇万円とし、その替り「マリンゴールド」の日本国内における独占的卸売販売権を日マリに与える合意がなされ、右内容を明確にするため、同年八月二四日、原告と日マリ間で契約書及び協定書が作成された。
(5) 米川博が日マリの経営に実質的に関与した昭和五三年二月から同年九月までの間、日マリが原告に支払つた金額は、一か月平均約金三〇〇〇万円程度であつたが、米川博が代表取締役に就任する以前に日マリが原告に対して振出していた手形で米川博が代表取締役に就任した以後に決済した分が、総額で金四三六五万九〇〇〇円あつたので、日本マリンゴールドの原告に対する月平均支払額は、右支払手形決済金を加えると、少なくとも金三五〇〇万円を下らないものであつた。
一方、右期間内の日マリの原告からの仕入額は、月平均約金二五〇〇万円であつた。
(6) 昭和五三年九月になつて、米川博は、月額金三五〇〇万円の売上を維持するのが困難なことから、原告に対し仕入及び支払の最低保証額を金二七〇〇万円から金三〇〇〇万円位のレベルにまで引き下げるよう契約条件の変更を申し入れたが、原告にこれを拒絶され、逆に原告から「マリンゴールド」の販売区域を静岡県を中心として東日本と西日本に分け、米川博に東日本のみの販売権を与えるとの提案がなされ、その結果、米川博と原告との間で、一か月の最低仕入。支払額金一五〇〇万円を努力目標とするとする替りに「マリンゴールド」の東日本における独占的卸売販売権を米川博に与える旨の契約が締結された。
(7) 米川博は、「マリンゴールド」の販売権を東日本地域に制限されたので、昭和五三年一一月に日マリの代表取締役を辞任し、それと同時に、各地区販売会社のうち日本マリンゴールド大阪販売株式会社、西日本マリンゴールド販売株式会社、日本マリンゴールド九州販売株式会社の各代表取締役をそれぞれ辞任し、一方それまで取締役であつた日本マリンゴールド東京販売株式会社の代表取締役に就任した。
(8) 米川博は、昭和五三年一〇月頃、本件商標が国際健康薬品によつて出願広告されていること及びこれに対して紀文が異議の申立をしていることを知り、被告及びその傘下の各地区販売会社の商標使用権を保全するため、同年一二月一日に紀文との間で抗弁1のような商標使用に関する契約を締結したが、米川博は、「マリンゴールド」の販売権を東日本のみに制限されたことなどから原告に対して不信感を持つていたため、紀文との契約締結を原告に隠していた。
(9) 米川博及び被告は、前記(6)の契約に従い、原告に対し月平均で金一五〇〇万円を超える支払をしていたが、原告は、昭和五四年三月になつて、被告に対し、原告の被告に対する債権担保のために、被告の各地区販売会社(日本マリンゴールド東京販売株式会社、日本マリンゴールド東北販売株式会社、北海道マリンゴールド販売株式会社)に対する売掛金債権を原告に譲渡することを内容とする契約を締結するよう求め、これを被告が拒絶したところ、原告は、昭和五四年四月一四日付の書面をもつて被告との商品取引契約の解除通知を行い、原告製品の供給を停止した。
(10) 被告は、原告から商品の供給を停止されたので、これに対抗して前記一2のとおり、独自に「マリンゴールド」の名称で深海鮫エキスの製造。販売を開始した。
(二) 右認定に対し、前掲甲第六三号証の証人金子利朗証人調書中及び同第六七号証の原告代表者本人尋問調書中には、米川博による日マリの株式約四〇〇〇万円の買取りのうち、米川博個人が出資したのが金一三六五万円、日マリの他の役員である加藤光宏が出資したのが金三〇〇万円で、その余の金二三三五万円は、各販売会社の売掛代金を流用した旨の記載部分があるが、右記載部分は、売掛金の流用を裏付ける帳簿等の証拠資料はないこと、被告代表者が、乙第五五号証の二の被告代表者本人尋問調書中において株式取得資金は、三菱銀行静岡支店と静清信用金庫駒形支店から米川博個人が借り入れして調達したと陳述していること等に照らしたやすく信用し難い。
(三) また、原告は、米川博は、原告に対する仕入及び支払の最低額金三五〇〇万円の契約条件を履行できず、また不正行為も発覚したので、その責任をとつて日マリの代表取締役を辞任したと主張する。
確かに、右契約条件のうち、仕入額の点では月額金三五〇〇万円を下廻つていたが、この契約の主眼は、原告の財務内容の立直しのため原告に対し月額金三五〇〇万円以上の支払をするという点にあつたというべきであるところ、米川博は、前記(一)の(5)に認定したとおり、支払手形決済金を加えた支払額においては、月額金三五〇〇万円を下らないものであつたのであるから、米川博は、原告との間の契約条件を一応履行していたとみるのが相当である。
なお、原本の存在及び成立に争いのない甲第六八号証の六ないし八、原告代表者尋問の結果及びこれによつて真正に成立したことが認められる甲第五一号証の一ないし五によれば、米川博が代表取締役を務めるマリンゴールド東北販売株式会社において、合計金額八九万二七〇〇円の領収書の改ざんがあつたことが認められるが、前掲乙第五五号証の一ないし五(被告代表者本人尋問調書)によれば、これは、マリンゴールド東北販売株式会社の社員のボーナス不足分を米川博個人が立替えていたので、これを回収するために経理上の操作をしたにすぎないものと認められるから、このことの責任をとつて、米川博が日マリの代表取締役を辞任するに至つたものとは考えられない。
(四) 更に、原告は、被告が独自に「マリンゴールド」の商標を付した深海鮫エキスを製造販売しようと企て、昭和五四年二月頃にこれを実行するに至つたと主張する。
そして、前掲甲第六六、第六七号証(原告代表者本人尋問調書)によつて真正に成立したことが認められる甲第五八号証、第五九、第六〇号証の各陳述書には、昭和五四年二月頃、東京マリンゴールド販売株式会社の社員らが米川博から同人が紀文の持つている「マリンゴールド」の商標の使用許可を得たことを聞いた旨記載されているが、同人がその頃具体的に「マリンゴールド」の製造販売を開始したとの記載はないから、右記載をもつて原告の右主張を認めるに足りず、他に被告が昭和五四年二月の時点で既に「マリンゴールド」の商標を付した商品の製造販売を開始したことを認めるに足りる証拠はない。
2 そこで、以上の認定した事実を前提にして被告の本件商標の使用が原告との関係で信義に反し権利の濫用にあたるか否かについて判断する。
(一) 「マリンゴールド」の表示が原告製造の深海鮫エキスを指称する商標として我が国において広く認識されるようになるについては、原告による宣伝販売活動が寄与したことは疑いのないところであるが、日マリ及びその傘下の各地区販売会社による「マリンゴールド」の販売活動もこれに大きく寄与したものと推認し得るところであるから、本件商標の利用によつて得られる利益を享受し得るのは、深海鮫エキスの製造元である原告のみに限られるものではなく、販売会社である日マリ及びその傘下の各地区販売会社もこれを享受でき得るものというべきである。
そして、日マリは、当初原告と浅山商事株式会社が共同で設立し、浅山商事株式会社が資本を引き上げた後、米川博が株式総数の約六四パーセントの株式を取得して代表取締役として経営に参加していたものであり、米川博は、その後日マリの代表取締役を辞任したものの、それ以降も東日本地域の各地区販売会社の代表取締役の地位にとどまつていたのである。したがつて、米川博及び同人が代表取締役を務める被告自体、本件商標を利用することから得られる利益を原告とともに享受し得る地位にあると解するのが相当である。
(二) 米川博は、本件商標を使用する権利を保全するために、原告に秘して紀文との間で本件商標の使用に関する契約を締結しているが、原告は、米川博が月額最低金三五〇〇万円支払の契約条件を一応履行していたのにかかわらず、同人に契約違反があるとして強硬に販売権を東日本地域に制限しようとする行為に出たものであるから、これに対抗するため米川博が前記のような行動をとつたとしても、これをもつて原告に対する背信的行為と評価することはできないものといわざるを得ない。
(三) そして、原告が、被告に債権譲渡契約の締結を迫り、これを被告が拒絶したとして一方的に商品の供給を停止したため、被告が自己の経営上の利益を保持するため独自に「マリンゴールド」の表示を付した深海鮫エキスの製造販売を開始するに至つたのであるから、以上のような事情の下では、被告が紀文との契約に基づきその製造販売する商品等に本件商標を使用したとしても、これを権利の濫用にあたると断ずることはできないというべきである。
四 以上のとおり、被告による本件商標の使用は、本件商標の独占的通常使用権によるものとして適法であるというべきであるから、原告の本件請求は、いずれも理由がないので、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 松津節子 裁判官 中山幾次郎)
商標目録
登録番号 一四八八八七四
登録年月日 昭和五六年一一月二七日
出願番号 五五-〇〇六六三五
出願 昭和四九年一二月一三日
出願人 株式会社紀文
指定商品 三二類 加工水産物、その他本類に属する商品
商標態様 マリンゴールド